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この時代を乗り切るワークスタイル改革

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働き方の常識変える、リクルートの奇策

リクルートホールディングス 働き方改革推進室 室長 林 宏昌氏

 これは根深い問題です。リクルートは「成果主義」「結果平等」が浸透しています。ですから、「この仕事は女性向き」「補助的な作業は女性がする」といった偏見は社内にありません。しかし、社会全体を見渡すと、「家事や育児は女性が担当するものだ」という価値観を持つ人がまだ多数派です。在宅勤務制度はもちろんメリットもある一方で、ワーキングマザーの立場からみると、必ずしもメリットばかりではない、利用にあたっての心理的なハードルがある、ということを感じたのです。

――確かに、共働きでも家事・育児の負担は女性のほうが大きいです。

 男性は結婚して子どもを持っても働き方が変わらない人が多いと思います。しかし、女性は出産・育児でどうしても業務時間が短くなります。つまり、女性は「働く時間が短い」というハンディを負っています。そこに目を向けないで「成果主義」「結果平等」を掲げることが本当に「平等な成果主義の会社」なのかと考えると、答えは「ノー」でした。結果(評価)が平等でも、働くプロセス(環境)が不平等であれば、それは不平等なのです。

 これを解消するには、「女性活躍のための働き方を考える」のではなく、男性も含む全従業員がこれまでの働き方を見直す必要があると考えました。リクルートグループでは、「個の尊重」を経営理念の中に掲げています。性差関係なく、従業員一人ひとりが能力を発揮し、多様な価値観・個性を融合させ、イノベーション創出につなげる。そして会社としても成長する。それが、働き方改革プロジェクトの目指すビジョンです。

出社する人を「マイノリティー」にしたかった

――具体的にはどのような施策を実施したのでしょう。

 働き方改革プロジェクトは2015年4月に発足し、約半年のリモートワークのフィージビリティースタディー(実行可能性調査)を経て、2016年1月に本格導入しました。フィージビリティースタディーで取り組んだのは主に2つです。1つは「会議や資料作成時間の圧縮」、もう1つは「場所(オフィス)からの解放」です。

 会議や資料作成時間の圧縮は、例えば、隔週で開く経営戦略会議の内容を見直しました。「起案書を1枚で終わらせる」といった制限を設け、資料作成にかける時間の短縮と効率化を図るといった具合です。また場所からの解放では、「週に1~2回の出社を限度とする」というルールを策定し、参加組織全体でリモートワークを実施しました。

――出社する回数を制限したのですか。その狙いを聞かせてください。

 オフィスに出社する人をマイノリティーにして、「社員がオフィスにいないことが当たり前の環境で仕事をする」状況をつくりたかったんです。

 先ほども触れましたが、既存の在宅勤務制度を利用した社員にヒアリングしたところ、「在宅勤務は周囲に迷惑かけているようで心苦しかった」と言われたんです。「在宅勤務をしている自分だけのためにテレビ会議をセッティングしてもらったり、資料をデータ化して事前に共有してもらったりといった手間をかけさせるのが申し訳ない」と。つまり、「自分はチームにとって迷惑な存在」だと負い目を感じていたのですね。

 本当に柔軟な働き方を自ら選べる状況を作るには、オフィスから従業員を解放し、「出社を前提としない風土」を醸成する必要があります。育児や介護、ボランティア活動など、社員のライフスタイルと仕事の両立を真剣に取り組むには、「振り切った施策」を断行するしかない。そして不便だと感じた部分は、どんどん改善していけばよいと考えました。

 例えば、テレビ会議でも参加者がホワイトボードを見ている前提に話を進めると、リモート組は理解できず不便です。全員がそうした不便を体験すれば、改善ポイントもつまびらかになりやすくなる。

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