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ネーミング全史

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初めにネーミングありき

岩永嘉弘 氏

 例えば―。

 見た目は他のビールと変わらない黄色い水が、その成り立ちを表現して名付けたとき初めて、その黄色い液体は「一番搾り」というモノとして、誕生した。存在し始めた。

 例えば、様々な記事で構成した紙の束が『STORY』と命名されたとき、女性の物語を編む雑誌であるコトを宣言して、その存在が世に生まれた。

 例えば、経済再興の戦略を様々に設計したあの施策は、「アベノミクス」というネーミングを付けることによって、メディアを席巻するコトとなった。

 という次第で、ネーミングとは、「モノやコトに付けられる名前」と定義しておきます(人名やペットの名前、草木や山や海など自然に付けられている呼称や固有名詞は、外しましょう)。

 そのネーミングが、モノやコトの文字通り具体的な姿となって世の中に広まっていく。名は体を表す。いえ、名は態をも表す。そのモノやコトの体や態を表しつつ、一つの言葉に凝縮して、世間に放つ。放たれた矢となってどこまでも広まっていく。ネーミングの広まっていくこの作業を、僕たちはしばしば「マーケティング」と呼んでいます。

 モノやコトを必要としている人に、届ける。あるいは必要を喚起する。つまり需要を作り出す。それがマーケティングです。コトやモノを人に届けようとするとき、ネーミングは尖兵となって突進します。旗印となって牽引します。

 そのマーケティングの先陣が広告でしょう。広告の中で、ネーミングはその核として、最重要な地位を占めているのです。

 すべてのモノやコトには、ネーミングがある。

 あらためてこう書くと、当たり前でおもしろくもおかしくもない。しかし、逆にもし、すべてのモノやコトに名前がなかったら、と仮定して考えてみると、事態ははっきりする。どんなにそのモノやコトを説明しようと(広告しようと)、僕たちはそのモノにたどり着くことができないのです。

広告の主役は、ネーミングだ

 いわゆる広告は、人をモノやコトに導くためにあります。写真やキャッチフレーズやコピーを駆使して人の心をつかみ、その商品を覚えさせ、そのモノやコトのところに連れて行く。それが広告の役割であり目的でしょう。その広告作業の中にあって、ネーミングは水先案内の役目を果たすのです。ネーミングこそが、広告の伝えるべき目的であるのです。ネーミングこそが、モノやコト自体であるからです。

 さて。広告によって人はネーミングを記憶し、商品にたどり着く。そう気付くと、広告のすべての手練手管は、ネーミングを覚えさせるためにある、といってもいいでしょう。

 こんなCMがあります。

 桃太郎や金太郎や浦島太郎などいろんな太郎が出てきて、奇想天外なドラマを繰り広げます。おもしろいセリフをしゃべって、僕たちを笑わせてくれます。あれはなんのためか。すべてauの「家族割」という商品(コト)を知らせて、好感を持って覚えさせ、加入させる表現です。私たちを誘う手練手管です。

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