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長島聡の「和ノベーションで行こう!」

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「異床同夢」で日本の技術はもっと強くなる

第1回 アスタミューゼの永井歩社長に聞く

ローランド・ベルガー 日本法人社長 長島 聡氏

永井 まず、私たちが持っている情報は「ありもの」と、「まだないけどニーズや実現意思があるもの」の2種類に分けられます。「ありもの」とは企業などが持つ技術やビジネスモデル、特許などですね。もう一つの「まだないもの」は、クラウドファンディングにおける製品情報や、大学や政府機関などでこれから行う研究情報・研究予算、ベンチャー企業の事業内容などが代表例です。

 例えば、クラウドファンディングは消費者の欲しいモノが具現化された製品やサービスについて、資金を募っていますよね。研究予算からは、研究者が世の中でどんなことを課題だと思っているかがわかります。ベンチャー企業も、創業者がこれから世の中で必要とされると思う製品やサービスを考え、事業として挑戦します。つまり、まだ世の中に表れていない課題やニーズとか、これから実現していきたいという意思を把握することができるのです。

長島 すごく興味深い考え方ですね。この2つの情報を把握することで具体的にどんなことができるようになりますか。

ロングテールを経営判断にどう生かすか

永井 大きく分けて2つあります。1つ目は「ありもの」の情報を把握することで、すべての資源を自社で用意する必要がない、つまり知恵や技術をお互いに貸し借りしたり、共有したりといった知の交流、オープンイノベーションに基づいた戦略を考えることができます。経営の選択肢が広がるわけです。オープンイノベーションをやるときには競争領域と非競争領域を決めていくわけですが、世界にどんな技術や企業があるのか知らないまま、自分勝手に進めることはできません。当たり前の話ですが、自分を知り、世界を知って初めて競争領域と非競争領域、つまり提携していく領域を決めていけます。

長島 なるほど。「自分勝手に」というところがミソですね。仮に競争領域と定義しても、それが世の中のどこかに既にあるとすれば、そもそも競争領域に設定していること自体が間違いということになる。逆に非競争領域、つまり競争しない技術だと定義したけれど、実は世の中に全然なかった技術かもしれない。もしそうだったら、本来より価値の低い状態でその技術を使われてしまうことになりかねないということですね。

永井 おっしゃる通りです。もう1つのできることというのは、「ありもの」と「まだないけどニーズや実現意思があるもの」を比較して把握することで、ニーズや実現意思はあるものの、まだ技術や知恵がなくて実現されていないものを網羅的に把握することです。人々の嗜好やライフスタイルは多様化し、ニーズや実現意思は細分化されています。一方、経済や社会は複雑になり、細分化されたニーズや一つずつは小さくて気付きにくい個人の意思やニーズから大きなイノベーションが起きることも多々あります。今は小さいベンチャー企業や小規模な研究でも、将来的にインパクトを与える可能性があり、こうしたロングテールの要素をどう把握するかが重要だと考える経営者がここ数年増えたと感じています。

 とはいえ、こうした経営者はまだ少数派で、日本企業はビジネスインテリジェンス、テクノロジーインテリジェンスに対する意識が圧倒的に少ないと思います。たいていの企業では各部門ごとに技術情報などを集める縦割り組織になっていて、それぞれが予算の分だけ調べて終わっています。従来の同分野の大手企業同士だけの競争環境ならそれでよかったかもしれませんが、今やあらゆる異分野から新規参入してくる時代です。全社的なビジョンに基づいたビジネスインテリジェンスの部門が必要だと思います。だからこそ、私たちの情報が求められ始めているのかなとも感じますが。

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