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石澤卓志の「新・都市論」

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不動産は「相対的な安定」が際立つ年に

みずほ証券 上級研究員 石澤 卓志氏

 2016年の不動産市場は、全体としては好調だったと言える。しかし「好調ゆえの問題」も顕在化してきた。たとえば、価格が上がり過ぎてマンションが売れなくなった。Jリート(不動産投資信託)など、不動産賃貸を主な収益源とする事業者も、不動産を買わなくなった。2017年も不動産市場は好調を維持すると予想されるが、地価は上昇テンポが鈍化して、横ばい傾向が強まりそうだ。ただしマンション市場は、税制の変更に伴い、一時的に活況となる可能性がある。

不動産投資の利回りが低下

 2016年の不動産市場を最もよく示していたのは、地価動向だと思われる。7月1日時点の基準地価において、全国ベースの商業地の地価が、9年ぶりに下落から脱却した。ただし地域差が大きく、三大都市圏(東京圏、大阪圏、名古屋圏)の商業地が4年連続で上昇したのに対して、地方圏(三大都市圏以外の地域)の商業地は25年連続で下落した。地方圏の下落率は徐々に縮小しているものの、地価が全体的に回復する中で二極化も進行していると言える。

 一般的には「地価が上昇すれば、不動産会社は儲かる」というイメージがある。確かに、保有している不動産の資産価値が上昇する点ではメリットがあるが、新たに不動産を購入する場合には、取得コストがかさみ、投資利回りが低下してしまう。

 あくまでも一般論だが、オフィスビル賃貸事業が採算を確保するには、NOIベースで3.5%以上の利回りが必要と考えられる。NOI(Net Operating Income、純収益)とは、オフィスビルやマンションの賃料収入から管理コストを差し引いた金額である。不動産は個別性が強いため、一律には評価できないが、この基準を下回る取引は、転売を目的とした「バブル」的な要素が強いと言える。

 東京都心部(丸の内・大手町エリア)のAクラスビル(優良ビル)に投資した場合の利回りは、2012年には4.2%だったが、不動産価格の上昇に伴って低下し、2016年10月時には3.3%になった(日本不動産研究所調べ)。都心部を除く東京23区は、3.8%以上の利回りを確保しているので、まだ「バブル」ではないが、「実需の限界」に近付いたと言える(図表1)。

図表1:取引利回りの推移 注:東京23区の主要地区において、Aクラスビル(優良ビル)に投資した場合の、取引利回り(市場価格に基づく利回り)の推移。<br>

出所:一般財団法人 日本不動産研究所 注:東京23区の主要地区において、Aクラスビル(優良ビル)に投資した場合の、取引利回り(市場価格に基づく利回り)の推移。
出所:一般財団法人 日本不動産研究所

 Jリート(不動産投資信託)には、高値取引を避けるために、不動産購入を手控える例が増えている。2016年にJリートが取得した不動産は1.7兆円に達し、前年(1.6兆円)を上回ったが、新規上場に伴う取得を除くと、件数・金額とも前年を下回った。

 Jリートを含む不動産証券化の制度は、もともと、バブル崩壊期に金融機関が抱えていた担保不動産の処理を進める目的で整備された経緯がある。かなり乱暴な表現をすると「不況で価格が下がった不動産を運用して、高い利回りを得る」点が大きな特徴と言える。不動産価格が上がると、投資利回りの高い不動産が少なくなり、Jリートの成長がストップしてしまう。

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