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「ありがとう」と言われる会社の心動かす物語

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「感動の接客」を生んだANAのこだわり

パッションジャパン 三枝理枝子 氏

 お客様は何に付加価値を感じ、対価を支払ってくれているのでしょうか。現代のサービスは「モノ」売りから「コト」売りの時代を経て、「こころ」を通わせた体験や癒やし、「こころ」の潤いを提供することに変わってきています。

 では、お客様と「こころ」を通わせる体験を実現するには、具体的にどうすればいいのでしょうか。サービスの良さで選ばれている企業は、選ばれるために組織的かつ戦略的に、実は何をしているのでしょうか。本連載では、お客様から心からの「ありがとう」が聞こえてくる、実際に本当にあったエピソードとともにお伝えします。

 今回は、飛行機の中で涙に暮れる搭乗客に「何かできることはないか」と心から願った新人客室乗務員の話。ささやかな気遣いが乗客の心を打ちました。そこにはANAの「お客様の心に残る体験をしていただきたい」という価値観が徹底されていました。

キャンディーよりも

 入社して、訓練センターで1カ月半、新入客室乗務員の訓練が行われます。保安要員、そしてサービス要員として、教官の講義とテスト、実践ロールプレイを何度も繰り返して厳しい訓練は進みます。

 初めに『型』を徹底的に身体に染み込ませ、さらに最も大事な『心』を入れていきますが、まず『型』の習得ができない者は現場に出してもらえません。同期が次々、試験をパスしていくなか、私だけ再試験を受けたり、居残りするなど、つらい日々が続きました。

 せっかく入社して訓練を受けるチャンスをつかんだのに「劣等生」になったかのように感じ、自信をなくし始めていました。

(私には、この仕事が合っていないかも。この場所は私の居場所ではない)

 そんなふうに思っていました。

「あと、もう少しだけ......」

 夜になると悶々としながら眠れない日々を過ごしました。それでも仲間に助けてもらい、何とか最終試験に合格し、機上訓練に進むことができました。現場に出ても不安な日々が続きましたが、親も期待してくれているし、仲間も応援してくれている。こんな早くにドロップアウトできるわけがありませんでした。

「もう少しだけ。せめて訓練バッジが取れて一人前になるまでは、なんとしても頑張るぞ」

 そう自分に言い聞かせ、実機での訓練を無事終了することができました。班の先輩には叱咤激励してもらい、涙したことも少なくありませんでしたが、サービスの本質を何度も目の前で見せてもらうことができました。今思うと、年齢はそう変わらないのですが、先輩たちはとても年上に感じました。それだけ遠い憧れの存在だったのです。

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