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TPPが日本農業を強くする

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日本は防衛的な農産物貿易交渉から脱却せよ

キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 山下一仁 氏

 これまで農政は防御的な貿易交渉に終始してきた。しかし、輸出を目指すとなるとポジションは変化する。輸出が行えるということは、相手国の国内価格から関税や輸送コストなどを差し引いた額よりも自国の国内価格が低いことが必要条件となる。したがって、価格競争力を高めるとともに、相手国に対して積極的に関税引き下げを求めていくことになる。もちろん、自国の関税引き下げも譲歩する必要があろう。これは、アメリカなどの輸出国が行ってきたことである。

農産物輸出を本格化させるための戦略

 さらに、関税引き下げだけではなく、非関税障壁についても撤廃を要求していくべきである。その代表的なものは、SPS措置(衛生植物検疫措置)である。累次の国際交渉により関税が引き下げられるなど伝統的な貿易手段が使いにくくなっているなかで、これに代わるものとしてSPS措置が国内産業(農林水産業・食品業界)の保護のために使われるようになっている。「偽装された貿易制限」である。

 例えば、中国からはおびただしい量の食品・農産物がわが国へ輸入されているが、わが国から中国に輸出できる農産物は、米、リンゴ、ナシ、茶(加工品)に限られており、他の野菜、果物、肉類等は輸出が禁止されている。米についても2007年4月に輸出解禁となったばかりであり、しかも、依然として厳しい検疫条件が要求されており、自由に輸出が認められているとは言いがたい。

 1994年に合意されたWTO・SPS協定は、科学的根拠に基づかないSPS措置は認めないこととした。これまでSPS協定に関する紛争処理案件でアメリカに訴えられるなど、わが国は被提訴国となってきた。中国のSPS措置に科学的な根拠があるのだろうか。科学的根拠がないなら中国と堂々と交渉し、成果が得られないなら、これらの国を訴えることを躊躇してはならない。

 これまで日本政府部内では、中国やアメリカと事を構えないようにしようという〝政治的な配慮〟が行われてきた。中国やアメリカとの友好関係にキズがつくようなことはすべきではないというのである。同盟国のアメリカさえ、わが国を訴えているのであり、経済的な案件に政治的な配慮を加えるべきではない。卑屈な態度を採るよりも堂々と相手方の非を訴えるほうが、国際社会では尊敬されるように思われる。今後は諸外国の偽装された貿易制限措置となっているSPS措置の撤廃を目指して、WTO・SPS協定やTPP・SPS章で認められている協議や紛争処理手続きを積極的に活用していく必要があろう。

 一般の人は、日本の食品はアメリカやヨーロッパに比べて安全だという認識を持っているだろう。これは、TPPによって日本の安全性基準がアメリカ並みになってしまうという主張に表れている。しかし、実際には必ずしもそうではない。食品や農産物のトレイサビリティもHACCPという安全管理の方法も、わが国は欧米に大きく立ち遅れているのである。

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