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経営トップのための"法律オンチ"脱却講座

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ケース19:あな恐ろしや、ブラックの烙印押されかねない労働審判

弁護士・ニューヨーク州弁護士 畑中 鉄丸 氏

今回の悩める経営者:株式会社サニー・ジャパン 代表取締役 しば珍一ちんいち(77歳)
相談内容

 先生、何ですか、この「労働審判」ってのは? 裁判とは違うんですか? といいますのはね、ちょっと前、若い従業員を解雇したんですよ。

 最近の若いのは、まあ、なっていない。遅刻はする、サボる、常識はない、言葉遣いは知らない、というより、そもそもやる気もないし、覇気すらない。今年採用した中で最悪なのが、この、「負田(まけた)佑(たすく)」という奴なんです。こいつが、あまりにひどいミスをしたんですよ。

 発注ミスです。キロ1000円の希少原料を10キロ発注するところ、間違って1000キロ発注して、大混乱です。倉庫はないし、放置しておいたら傷み始めるし、結局、従業員を含めて、皆の家の冷蔵庫借りて手分けして冷蔵保管する手配するとかして対応したのですが、もう大変だったんです。

 ミスの理由を聞いたら、前日飲み過ぎて、ボーっとしていたらしい。上司の発注確認プロセスがあるからそんなミスが起こらないはずなのですが、サボっている間に時間が切迫して、間に合わなくなるのと、面倒くさいのと、怒られると思ったこともあって、「ま、確認とかいいだろ」とすっとばしたところ、大チョンボしでかした、というわけです。

 上司はおろか、先輩も、同期も、後輩も、誰も負田(まけた)をかばうどころか、「もう、こんないい加減な奴と仕事をしたくない」と異口同音に言い始め、私も、これは治らんと思い、その日の夜、解雇を言い渡しました。

 負田(まけた)は、「うぇー、まだ気持ちわりい、吐きそう。あと、頭痛え。クビっすか。じゃあ、来んな、ってことですか。こっちも生活あるんで、クビは勘弁っす。でも、来んなって言われちゃったら、来ても働かしてくれないんすよね」とブツブツ言いながら、ふてくされて帰りました。

 社労士の先生の話を参考に、予告手当として1カ月分、さらに、手切れ金がわりに少しイロをつけた退職金を負田(まけた)の口座に振り込んで支払い、その後、音沙汰もなく、平和な日々が続いていました。

 そしたら、先月、裁判所からこれが来たってわけです。これです。労働審判申立書。まあ、勝手なことが書いてあります。奴は「帰って何もすることないし、メシ代もかかる」とか言っていつも会社でブラブラしていたので、出前取って食わせてやった。その間、昔の苦労話を聞かされたことは「労働時間として働いたことになる」から残業代払え、とか。

 あと、営業に出た帰りにはいっつも「飲み連れてってくださいよ~」とねだるので、飲みに連れて行ってやった。その時間も、仕事のやり方を教えてたから残業だ、とか。何ですか、それから、これが一番問題なのですが、解雇についてです。解雇は無効だし、今も従業員だから給料を払え、とか。ふざけ過ぎてますよ。

 一昔前になりますが、その昔、といっても、もう前世紀ですね。2000年より前の話です。中途採用した人間と解雇トラブルで訴訟でモメたことがありましてね。そのときは、まあ、時間がかかりました。

 映画とかドラマとか見ていると、裁判ってものすごいスピードで進む印象があったのですが、実際、裁判やってみると、とにかく遅いし、チンタラチンタラ。「裁判って、思いのほか、ダラダラやるもんだ」というのが、私の経験上の知識です。

 というわけで、あまり気にも留めず、「急ぐ話でもないか。アメリカに出張して帰ってきてから対応すりゃいいや」と思ってほっときました。出頭期日があったらこったらとか書いてましたが、「これも、まあ、相手の都合で一方的に決められたものだし、変更くらいしてくれるだろう」と思ってました。

 ところが、昨日、電話したら、どうも、裁判所の対応が違うんです。「期日の変更は認めない」「言い分とか、証拠とか、早く持って来い」「弁護士つけた方がいいぞ」とかエライ厳しいんです。で、不安になって、先生のところに来たってわけです。先生、大丈夫ですよね。問題ないですよね。何とかなりますよね。いえ、少し不安になったので。

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