日本経済新聞 関連サイト

米軍式 人を動かすマネジメント

記事一覧

なぜF86は高性能のミグ15に勝利できたのか?

田中公認会計士事務所 所長 田中靖浩 氏

 ある男が、じっと腕組みして考えていました。「なぜ性能に劣る戦闘機で、敵に勝つことができたのか......」。しかし、簡単に答えは見つかりません。彼の名はジョン・ボイド。1950年から始まった朝鮮戦争を戦った米軍パイロットです。彼が操縦したF86(通称セイバー)は、敵国ソ連のミグ15を多数撃墜しました。

空中戦のドッグ・ファイトで求められること

 しかしF86のカタログデータは必ずしもミグ15よりも高くはなく、加速や旋回性など多くの性能についてむしろミグ15のほうが優れていたのです。しかし結果はF86の圧勝でした。

 この理由についてボイド大佐は、当初「パイロットの訓練差」と単純に考えていたようですが、その後の調査研究の結果、理由はそれだけではないとわかりました。カタログスペックで劣るF86が勝利を収めたことには、2つの構造的理由があったのです。

 ひとつはパイロットの「視野が広かった」こと。これによってF86のパイロットは敵機の位置を観察しやすかったのです。これに対して高速のアップを追求したミグ15は流線型にこだわってパイロットの視野が狭くなっていました。

 そしてもうひとつは「操縦桿の操作が軽かった」こと。F86は大馬力エンジンを搭載し、その翼は油圧で操作できたため、パイロットは軽い力による操縦桿操作で機動することができました。この点ミグ15の操縦桿は重く、操縦にかなりの力を要しました。

 「視野が広いこと」そして「操作が軽いこと」。この2つの物理的な特性はパイロットの操作性を高め、精神的なストレスを減らします。かくして精神的優位に立ったF86のパイロットは、性能に優れたミグ15を多数撃墜できたというわけです。

 戦闘機の戦いは敵機の背後を狙います。互いに背後を狙い合う空中戦は、犬同士がしっぽを狙って戦うさまに似ていることからドッグ・ファイトと呼ばれます。パイロットが事前にどれだけ綿密な計画シミュレーションを行っても、空中戦のドッグ・ファイトで敵はその通りに動いてはくれません。それより交戦時によく相手を観察し、スピーディーかつ臨機応変に動くことが求められます。

 それゆえ戦闘機には視野の広さと操作の軽さが重要であり、これがあれば加速・旋回・上昇の物理的スペックで優れた敵機にも勝てます。視野の広さと操作の軽さは、パイロットの心理的な機敏性を高めます。

 この発見は、のちの米軍戦闘機の開発設計思想に大きな影響を与えました。それだけではありません。ボイドは1987年、人間そのものに焦点を当てたOODAループ理論を発表、このOODAループは機動戦の基礎となったのです。

PICKUP[PR]