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佐藤可士和のクリエイティブシンキング

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コンビニの棚だってメディアになる

アートディレクター/クリエイティブディレクター 佐藤可士和 氏

 "リアリティが共感を呼ぶ"とは僕の信条の1つですが、コミュニケーションの観点から見ると、現代はまさに"共感"の時代と言えるのではないでしょうか。このような時代の気風と密接に関わっているのが、メディアのあり方ではないかと思います。その変遷を辿ってみると、現代のコミュニケーション活動におけるメディア戦略の重要性が、おのずと浮かび上がってきます。

既存メディアの枠を打ち破る

 僕が思うに、1980 年代から90年代にかけてのマスメディア全盛期の頃は、広告コミュニケーション的には"説得"の時代だったのではないでしょうか。テレビ、新聞、雑誌、ラジオ。このマス4媒体を通して、企業側の発信する新しい商品情報を消費者は素直に受け入れてきました。テレビCM がお茶の間で大きな話題になったり、新聞広告が権威を誇っていたりと、マス広告の効果は絶大だったのです。当時は今に比べて情報量も少なく、情報源も限られていましたから、説得型のコミュニケーションが受け入れられやすかったのだと思います。

 そうした状況が変わってきたと感じ始めたのは、1990年代半ばです。消費者の情報リテラシーも上がってきたためだと思いますが、人々が企業側の一方的な説得を鵜呑みにはしなくなってきました。そこで、よりソフトな"提案"型の広告コミュニケーションにシフトするようになったのです。あからさまに「これがいい」と押しつけるのではなく、「こういう良さがあるのですが、いかがでしょうか?」と、さり気なく誘導する方法です。雑誌では記事に違和感なく溶け込むタイアップ広告が目立ち始め、PRを含めた複合的キャンペーンが増えてきたのもこの頃です。メディアミックス時代の到来です。

 さらに2000年以降になると、携帯電話やインターネットが生活に浸透していき、情報の流れは一方通行から双方向へと激変しました。ブログやSNS が社会現象となり、企業が介在しない個人個人の結びつきが深まり、一般ユーザーの発する忌憚のない評価やリコメンドに皆がリアリティを感じるようになってきたのです。情報量が莫大に増え、価値観や嗜好性がますます多様化する中で、企業側からの情報だけではなく、利害関係のない消費者同士がつながりを求め、情報を交換し合う傾向が高まっていったのだと思います。このような経緯で、"説得"から"提案"を経て、現在の"共感"の時代になったのではないでしょうか。

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