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中国大停滞

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エリート幹部も懸念する「中所得国の罠」

経済評論家 田中 直毅氏

 中国経済の失速は短期的な調整過程では終わらない。長期にわたる停滞への入り口にすぎない――。経済評論家の田中直毅氏は、独自の経済動向をとらえる指標を開発し、早くから中国経済の変調を指摘してきた。知識人を中心に40年近くにわたる幅広い交流を重ねてきた著者が、中国が直面する問題の核心を、経済のみならず、政治、歴史にわたって解き明かす。

楼財政部長が鳴らした「警鐘」

 中国のきわめて優秀な官僚のひとりに楼継偉がいる。楼継偉は中国の財政政策の実務を担う最高責任者であり、日本の財務相に相当する財政部長を務める。アジアインフラ投資銀行(AIIB)や「一帯一路」(新シルクロード構想)などの政策立案を担うひとりだ。

中国は難局を乗り切れるか(全人代に臨む習近平国家主席=3月5日、北京の人民大会堂) 中国は難局を乗り切れるか(全人代に臨む習近平国家主席=3月5日、北京の人民大会堂)

 楼財政部長は私の古くからの友人である。1978年、中国では10年以上の時を経て大学入試が久々に行われた。文化大革命期に大学がすべて閉鎖されたため、大学に進学するはずの人が10年以上にわたって社会の底辺に押しとどめられた。

 楼継偉をはじめ1978年の大学入試合格者たちは、いわば10年分、社会に滞留していた人々から選抜された人材だ。飛び抜けて優秀であるとともに、「新しい中国は自分たちが担わざるをえない」とし、「前の世代とは断絶あり」と自覚する人々でもある。元駐日大使の王毅外交部長(外相)や、周小川中国人民銀行総裁らもそのメンバーだ。彼らを私は勝手に「78年組」と呼ぶが、彼らは同士愛に溢れる人々でもある。

 私がこの78年組の人々に出会ったのは、彼らの一団が日本を訪問し、彼らのリストに基づいて日本人と議論をしていった際である。その後側聞するところによれば、この一団は日本のみならず欧州、米国も訪問したという。これは明治に入り、岩倉具視らの一行が近代国家の運営の基本を習得しようと、当時の先進国である欧州諸国、米国を回ったことに匹敵しよう。その裏では、すでに中国において社会的な役割を果たし始めていた78年組に対する当時の朱鎔基首相による配慮があったという。

 楼部長を代表とするこの78年組はどのような思いを抱き、中国社会の近代化という百年を超えるテーマに取り組もうとしたのか。私は、彼らの鼻息とでもいうべきもの、突き詰めた問題関心とでもいうべきものに接する機会を得たのだ。

 楼継偉財政部長は、2015年4月24日の清華大学設立104周年記念講演で、中国社会の現実について、きわめて興味深い枠組みを提示した。この講演からは、現在の中国社会が挑戦しなければならない課題が見事に浮かび上がる。それをここで紹介するのは、中国の今後を中国自身がどう捉えているか、その危機意識を知ることで、われわれの中国社会理解の一助となるからだ。

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